情熱大陸に出たいんだが

情熱大陸にいつか出たいと思っているが、特に取り柄があるわけでもなく、それどころか就職浪人すら見えてきたお先真っ暗な私の普通のつぶやき

会話中に相手がいきなり葉っぱ食い始めたら面白いんじゃないかと思ってやってみた

ある日の夜、僕は友達と街を散歩していた。

最近、彼は友達から恋愛相談を受けることが多いらしく、どういった相談を受けたか、それに対してどのようなアドバイスをしたか、熱心に話していた。


そんな、熱心に話している最中に、いきなり横のやつが、葉をむしり取って食べ始めたら、絶対に面白いと思った。

彼を笑わせることができるという確信があった。なんてシュールな絵になるだろう。


すぐさま僕は、横に生えていた木から葉をちぎり、普通の顔で口に運んだ。

「うんうん」と頷きながら、しっかりと彼の目を見て葉をむしゃむしゃした。



彼は、僕の口元をしっかり見ながら熱心に話を続けた。



口には葉の独特の苦味が広がり、普通の人ならすぐに吐き出す味だったが、彼を笑わせるために僕は普通の顔でむしゃむしゃした。



彼は熱心に話を続けた。



普通の人なら飲み込めないだろうが、彼を笑わせるために、僕は分かりやすくゴクンと苦い葉を飲み込んだ。



彼は僕の目をまっすぐ見ながら、「当たって砕けろなんてとんでもない、」と、なんか良さげなことを言っている。


葉の悪い後味に苦しめられ、それどころじゃない僕は口のあちこちに残り、口に苦味をもたらし続ける葉のかけらを全部処理しようと口をもごもごしていた。

すると彼が、

「葉っぱって食べたらどんな感じなの」

と普通の顔で聞いてきた。

不意を突かれた僕は、なんとか平静を装って

「えっ、あぁ、味は苦いよ。食感はエビの殻を食べてるみたいだ。」

と真面目に答えた。

彼は少し頷いたのち、横の木から枯れた葉をちぎり、無言で僕に渡してきた。

ん?これを食べろということか。
どうやら、彼は、僕のことを、葉っぱを主食としている「ラマ」あたりの動物と勘違いしているらしい。

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だが、ここで引いたら負けだと思った僕は無言で差し出された枯葉を食べた。

「うん、味はあまり変わらない。ただ、食感は干からびたエビの殻を食べてるみたいだ。」

と答えた。

また彼は何かに納得したように小さく頷き、今度は横に咲いていた花をちぎって自分で食べ始めた。

「料理にたまに付いてくるタンポポみたいな味がする。」

「へ、へぇ。花はあんまり食べたことないな。」

「あぁ、花は食べないんだね。」

「え、あぁ、そうだね。葉だけだね。」

真顔で交わされる会話だったが、内容は思い返せば思い返すほどよくわからなかった。

その時、彼が突然、

「キリンみたいに木に生えてる葉を一気にむしゃむしゃ食べてみてくれよ。」

と言ってきた。なんという挑発だ。

こいつは木に生えている苦いエビの殻を大量に口に含めと言っているのか。

本当に僕の主食は葉だと思っているのか。

しかしここで、

「あはは、僕は、本当は葉を食べないんだ、それは勘弁してくれよ」

と逃げてしまうと、心の隅にある、残りわずかのプライドすら失ってしまう気がした。

負けるものか。
僕は木に近づき、大量の葉に顔を埋めて、すこしでも美味しそうな葉を探した。

元はと言えば彼を笑わそうとしただけだった。笑わせたかっただけなのに。

僕は今、葉に顔を埋め、少しでも美味しそうな葉を探して食べようとしている。

なんだこの屈辱的な様は。

でも僕は美味しそうな葉を探しだして食べた。

噛めば噛むほど苦味が口を満たしていく。

と同時に、彼からの挑戦に勝ったという満足感も僕の心を満たした。

苦さと誇らしさで目に涙を浮かべている僕をみた彼は、敗北を認めたかのように、手を差し伸べてきた。

敗者を認めることも、勝者の役割の1つだ。仕方なく握手に応じてやった。

握手をすると、手に変な感触が伝わってきた。

彼の手にはいつの間にか笹の葉が握られていた。笹の葉も食ってみろってことか。

とことん面白い奴だ。

目を合わせて、僕も彼もニヤリと笑った。

明日、トイレで出す便は、誇らしい緑色をしていることだろう。



ところで、当たって砕けろって、どこがダメなんだろ、今度会ったら聞いてみよう。